魔法使い リリ
私の名前はリリ。この村で野菜作りをする両親の間に生まれ9歳になった。
お父さんはとても厳しくて、村で一番の頑固者と呼ばれている。
お母さんはとても明るい性格でいつも優しかった。
そして、5歳年上の優秀なお姉ちゃんがいます。
とても優しくて。頭も良くて、魔力の数値も申し分ないと村長さんから褒められるほどでとにかく私にとっての憧れでした。
生まれつきだろうか。私は活発で負けず嫌いで昔からおてんばと言われていました。
幼い頃は歳の近い男の子とも力比べ、かけっこ、ましてやケンカをしても負けないくらいでした。
私が6歳の時、隣の男の子とケンカをしてケガをさせた事がありました。
その日の夜はお父さんにこっぴどく叱られ罰で納屋に入れられました。
怖くて泣きじゃくる私のもとにお姉ちゃんはこっそり現われてパンを食べさせてくれました。そして、「大丈夫、大丈夫」と頭をなでながら朝までそばにいてくれました。
私も将来、お姉ちゃんのような優しくて優秀な魔法使いになりたいって思いました。
生まれて3282日を迎えた日のことでした。
私に魔晶初めの儀式を受ける日が訪れました。今夜から魔法使いの仲間入りとなるローブに身を包み、両親に手を引かれ神聖な占術堂へと向かいました。
私にはどんな魔法の才能があるのだろうか。胸がどきどきしました。
あれは夏の夜。
月の明かりに優しく照らされ遠くからフクロウと虫の鳴き声が会話をしているように響いてくる。新しい衣服にはもちろん、いつもは許されない夜更かしを両親とともに過ごしていることを特別に感じていました。
本堂に着くと村長さんと偉い人たちが待っていました。
「よく来たね。疲れてないかい?」緊張している私に村長は優しく声をかけてくれました。
私は首を横にふると、
「さあ中にお入り」と誘ってくれました。
沢山のろうそくで明るく照らされた本堂の真ん中には床に大きな魔方陣が描かれていました。
「さあ、あそこに立ってごらん」そういってお父さんは繋いだ手を離すと魔方陣の真ん中を指差し、
「大丈夫、大丈夫よ」にっこりとほほ笑むお母さんは繋いだ手をゆっくり離すと優しく頭をなでてくれました。
私はゆっくり歩いて魔方陣の中へ立った。
「では、始めるとしよう」
村長さんと三人の偉い人たちがブツブツと一斉に呪文を唱え始めた
すると奥からユラユラと頭と同じくらいの大きな水晶が飛んできた。
足もとから風を感じると魔方陣は光り出し、じわじわと強さを増していった。
風は激しくなりローブの袖も裾も長い髪の毛も逆立つように揺れ始め、私は眩しくて思わず目を閉じた。
堂内を照らす幾つかのろうそくはかき消され、魔方陣の青白い光だけが波打つように辺りを激しく照らしていた。
私のドキドキと興奮は最高潮だった。そして心の中で呟く・・・
「赤色に光れば炎、水色に光れば水、緑色なら風、それからえーっと。もう何でもいいわ!お願い!強く光って!お願い!」
村長さんが大きな声で
「水晶に手をかざして!!」
私は強い風と眩しい光をかき分けるように両手を水晶にかざした。
「精霊さま、この子に宿る素質を示したまえ!!!」
ふっと冷たい空気が流れると村長さんの声はむなしく暗闇に響きました。
魔方陣は宙に消え、水晶の灯りも消え失せ床におちてしまった。
私がかざした水晶は光りませんでした。
それは私がこの村で、この一族として無能であることを知らしめたのです。
ショックと失望で動けない私に、村長さんたちの溜息や落胆そして冷たい目が向けられました。
その夜の帰り道。お父さんはだまってずっと前を歩く。
お母さんとお姉ちゃんは必死に優しい言葉を探しながら私の側を歩く。
それが耐えられない私はその日から心を閉ざしていきました・・・。