月灯りのレストラン  ④

その頃、ラムレルは広いレストランのホールに案内されていた。

 

真っ暗なホールの中央にポツンとある一台の円卓テーブルに着いた。

すると、スポットライトの明かりがラムレルとそのテーブルを照らした。

 

「ラムレル様、改めて今宵はご来店くださいまして誠に有難うございます。当店自慢の夜空料理をご用意させて頂きます。」

「あ、あの、ここに来たら僕の忘れた記憶を戻せると・・・」

ギャルソンは恐らく口の辺りと思うところに一差し指をあて

「大丈夫です。当店のシェフが腕を揮うのは貴方の深層心理に語り掛ける料理、貴方が真に願う最後の晩餐といったところでしょうか」

「・・・。」

ラムレルは難しい顔をして困っていた。

「お任せ下さい。忘れたいと願う悲しい記憶もあれば、忘れたくなかった嬉しい記憶もあります。そして人は忘れてしまいたい事が何だったのか、それすら忘れてしまうとても悲しい生き物なのです。」

 

 

ギャルソンはまた指パチンと鳴らすと深くお辞儀をして

「ではお料理を始めさせて頂きます。」

と言い残し姿を消した。

 

ガタンッと奥の扉が開き厨房から小さな小人が頭の上に銀色のトレイを抱えて現れた。

コックコート着た頭がお星さまの小さな小人だった。

ぴょんとテーブルに飛び乗ると、トレイにのせていたグラスを差し出した。

「アペリティフは月のカクテルです。どうぞ。」

金色のパチパチと音がするドリンク。水面を炭酸がはじけると小さな花火ようにキラキラと星が浮かんでは消えた。

ラムレルはそれを一気に飲み干した。冷たくて甘酸っぱい風味が喉を通り、ピリピリした刺激が体を通った。

そして、ふうっと吐いた息にキラキラとした光の粒がまじり宙に消えていった。

 

グラスを置くとまたさっきの小人がまたトレイに料理をのせて現れた。

「メインディッシュ、夜空のシチュー雲のパイ包み焼きです。どうぞ」

 

グラタン皿に白いふわふわとした綿飴のようなパイがのっていた。

ラムレルは並べられたスプーンを手にすると料理に伸ばした。

白い雲はスプーンの先でパリパリと音を立てながら崩れ、中からは宇宙のような色のシチューが姿を現した。

 

シチューをすくうと白い湯気とともに懐かしい香りがした。

スプーンの淵から零れた宇宙が流れ星のように落ちていく。

そしてシチューを口にする、とどこかで誰かと何度も食べたような味がする。

 

思い出せ!思い出せ!!そう念じながらまた一口、もう一口とスプーンを運ばせた。

頭の中の血管が破裂しそうなくらいグラグラと暴れている。得体の知れない懐かしさと切なさで胸が締め付けられそうになる。

閉じられた扉のドアノブにもう少し手を伸ばせば届くのに、何度もあと少しのところで引きもどされる。

 

ダメだ、、、。

ラムレルが呟きスプーンを置いた。

 

コツコツコツ、足音と共にギャルソンまた姿を現した。

そして、ラムレルの肩にそっと手を置くと語り掛けた

「お口に合いませんでしたか、ラムレル様」

「いいえ、そんな事はありません。でも・・・。」

「ふふふ、ラムレル様。いいですか、お料理とは目でも楽しむものですよ」

そう言ってフォークを指さすとまた姿を消していった。

 

ラムレルはフォークを手にし夜空のシチューにさした。そして、ゆっくり上げるとフォークの先に一つ星が刺さっていた。

 

その五芒星の角からまた流れ星の雫が落ち、ちゃぽんと音をたてた。

 

静まり返った部屋にその音が響いた。

 

脳の中を、心臓の中にある心を、ピリピリと電気信号の針が刺激する。

「思い出した!!そうだ僕は食べたんだ、あの日もあの夜も星を沢山食べたんだ。誰と?

そう!みんなと!みんな?、、、家族だ!嫌いだったけど星だから食べれたんだ!ママが星にしてくれたから食べれたんだよ!」

 

溢れる涙を押さえ立ち上がったラムレルの体に青白い光のオーラが包み、目の前にまた記憶のガラス玉が現れた。

新しい記憶の永魂「スターラッシュ」

 

ラムレルは新しい永魂をその手に掴み

「ごちそうさまでした」と頭を下げ、ホールを出た。

 

暗い廊下を抜けると玄関でギャルソンとみんなが待っていてくれた。

リリは心配そうな顔でラムレルを見つめていた。

「大丈夫?もう痛くない?」

不安そうな声だった。

「うん、大丈夫だよ。何ともなかった。見て、新しい力と記憶を手に入れたんだよ。星の光みたいだ」

嬉しそうに手のひらの永魂を見せた。

「やったな!ラムレル!」

「おめでとう!」

ヴァイスとキルトはまた一歩成長したと喜び祝福していた。リリはその少し後ろで寂しさを押し殺した作り笑顔でいたのでした。

 

「では皆様、当店は間もなく閉店のお時間でございます。またのお越しを心よりお待ち申し上げます」

 

ギャルソンが丁寧にお辞儀をするとまた辺りは白い光に包まれ、祭壇の前へと帰っていた。

 

遠くの山間から日が昇り始め朝が始まろうとしていた。

ラムレルたちはそれぞれの出来事を話しながら下山していきました。