地球から遥か遠くにある惑星ジュエリ。
星を飾る国 チェルシー王国から北東、海を渡った大陸でのお話。
ある日のこと、森の中に紫色の奇妙な生き物が倒れていました。
彼はしばらくすると目を覚ましました。そしてお腹を空かしていたので食べ物を求め歩きまわりました。
やがて森を抜け山道を下ると小さな町を見つけました。
活気のある賑やかな声に誘われ町の門をくぐるとその声は悲鳴に変わりました。
「化け物だ!いや、悪魔の使いが現れたぞ!!」
町の男たちは石を投げたり、武器を持ち追いかけてきました。
なんとか逃げ延びた彼はまた森へと帰ることにしました。
「はて?何か悪い事でもしたかな。うーん」
悩んでみたものの、何も心当たりがありません。
そもそも、思い出そうとしても何も覚えていませんでした。
木陰に腰を下ろし、ぼんやりと考えました。
自分は何処から来て、なぜ倒れていたのかと。
「うーん。。。何にも思い出せん」
ぐうぅ~~とお腹がなりました。
「お腹すいたなー」
そう呟くと隣にちょこんと座る小さな子に気が付きました。
「お前もおなかすいたのか??」
話しかけると小さな子はこくりと頷きました。
「生憎何ももっとらん。一緒に食べ物探しにいくか?」
小さな子はまた頷きました。
彼は立ち上がり歩き出すと小さな子はちょこちょこと走り、追いつくと手を握ってきました。
「おまえの名前はなんていうんだ?」
小さな子は首を傾げました。そして「ジジジ」と答え指をさしました。
その先に木の実やキノコが生えていました。
「おお、あれは御馳走かな?あれは食べられると思うか?ジジジ」
小さな子は少し嬉しそうにまた頷きました。
それから数年経ちました。
暗い夜に森の中を歩く一人の青年がいました。
彼の名はポルト。世界中を冒険する旅商人でした。
その日彼は立ち寄った森に珍しい鉱石を見つけ、夢中で掘り集めているうちに迷ってしまいました。
冷たい雨にも打たれ、彼はすっかり疲弊してしまいました。
もともと怖がりなポルトはガタガタと震えながら木の根元で縮こまっていました。すると後ろでガサガサガサと茂みが激しく動きました。
ポルトは
「あーもうダメだ。食べられる。神様、俺はおいしく無いと言ってやって下さい。お願いします。あー神様!」とうずくまりながら祈りました。
すると、ポルトの肩でポンポンと音がしました。
「どうしたんじゃこんなところで。森にでも迷ったかい?」
ポルトはとっさに熊や獣と思ったが優しい声をかけられ安堵しました。
「あーそうなんだ。助かった、声をかけてくれてありがとう」
と返事をして顔をあげると目の前に紫色したしわしわ顔の化け物が立っていました。
「▽◎■×!!!」
ポルトは言葉にならない悲鳴を上げて気絶しました。
暖かい空気が流れパチパチと焚火の音が聞こえてきました。
ポルトは目を覚ますと洞窟のようなところで眠っていました。
「ここは?」
「わしの家じゃよ。洞穴を見つけてコイツと住処にしとるんじゃよ」
聞き覚えがある声が聞こえました。
「あの化け物!!」
「失礼な奴じゃ。命の恩人を化け物呼ばわりしおってからに。ほれ、特製スープを飲め。体が温まるぞ」
ポルトはボコボコに歪んだコップを受け取りました。
「ありがとう」
焚火の明かりで見る彼は気色悪いが優しい顔をしている事に気が付きました。
そしてコップから漂う甘い香りのスープを口にすると
それは薄味だが木の実とキノコの風味がするスープでなんだか心が落ち着きました。
「さっきはすまなかった。その、俺はポルト。旅商人をしている。あんたは?」
「わしか?わしはジジル。そして隣にいるのはジジジじゃ」
「そうか、助けてくれてありがとうジジルさん。・・・えっと。隣には誰かいるのか」
「ほう、お主には見えんのだなぁ。一応いるんじゃ。白くて小さい子が」
「妖精か何かか?」
「さあなぁ。わしも分からん。何を聞いてもジジジとしか言わん。そのくせわしのことはジジルと呼びよる」
「そ、そうか。」
「わしらはこの森の事しか分からん。人と話をするのもお前さんが初めてなんじゃ。明日晴れたら森の出口まで案内してやろう」
ジジルは足をひこずるように歩き焚火の近くへ行くと膝をかばう様に腰を下ろしました。
「ジジルさん、足が悪いのかい」
「ああ、老人のように膝が悪いんじゃ」
「その体で俺を担いで運んでくれたのか」
「まあ、そうじゃが。杖を持っていたから、大したことはないさ」
「杖?で?」
ポルトは首を傾げるとジジルは足元の杖を起こし手渡しました。
「それを持って立ってみな」
きれいな鉱石が埋め込まれた杖を手にポルトは立ち上がると不思議なことが起きました。
「ジジルさん、なんだこれ。体が軽くなった。これを持って歩いたら疲れる気がしないぞ」
「わしのお気に入りの杖じゃ。すごいじゃろ」
「これは何処で手に入れたんです?」
「何処でもなにも、わしのお手製じゃよ」
「す、すごい!これは魔法です。魔法の杖ですよ!ジジルさん」
ポルトに褒められてジジルは嬉しそうだった。
「そ、そうかの。でもやらんぞ」
ポルトはジジルに杖を返し
「ジジルさん、これと同じものって作ることは出来そうですか?もちろんお礼はします」
ジジルは困った顔をして答えた
「全く同じ物は出来ん。杖の木も鉱石も大きさ形はそれぞれ違う。まあ、同じような効果を持たす事なら可能じゃが、、、」
「充分です!この効果が素晴らしいんですよ!!!」
ビジネスの匂い、旅商人の感が働いたポルトは目をキラキラさせました。
「ジジルさん、今まで誰かに杖を見せたり売ったりしたことは?」
「覚えとらんが。ここ数年はジジジとしか話をしとらんからなぁ」
「ジジルさん、この杖を見たらみんな驚きますよ!きっと喜ぶ人も沢山いるはずです。どうか私に任せてもらえませんか」
「うーん、わしはこんな姿身じゃから。金を受け取っても使うことが出来んよ。」
「じゃあ、物々交換はどうだ?ジジルさんが欲しい物を俺が買って届けよう。例えば調味料、塩や砂糖、バター、干し肉に柔らかいパン、葡萄酒だって持ってくるぞ!どうだ?」
今度はジジルとジジジが目を輝かせました。
「それは本当か!よし!ポルトや。明日からわしは杖を作ろう!全ておまえさんに託すとしよう。」
「世界を股にかける旅商人ポルト!俺に任せてくれジジルさん」
その夜、ポルトとジジルは朝まで語り合いました。
ジジルは森で目が覚めてからのこと。それ以前の記憶がないこと。ジジジと過ごした今日までのこと。
ポルトは今まで世界を旅した冒険話に将来は自分のお店を持つ夢を話しました。
ジジルとポルト、こんなかけ離れた姿をした二人だが気が合うのかとても楽しそうでした。
隣にちょこんと座っているジジジは嬉しそうに二人を見つめていました。