時の洞窟
暗い洞窟は何処までも続く。変わったことがあるとしたら幾重にも枝分かれをし始め、もう進んでいるのか回り回って元の所へ戻っているのか。それすら分からないほどに洞窟はまるで迷路のようだった。
あの少年はあれからどれだけ歩いているのだろうか?
何年、何十年と歩いているうちに記憶も心もすっかり消えてしまったようだ。
それからまた何百年と歩いて、とうとう体もすり減り砂のようにさらさらと消えてしまった。
ただただ歩いているという意識が少年だった彼の魂を一歩、また一歩と前へ動かしていた。
そんなある日のこと、背後から大きな音が聞こえてきた。
タタタッ タタタッ。地面を叩く足音が洞窟に響き迫ってきた。
すっかり魂となってしまった少年はそれに気付くことはなかったが、黒い影は疾風のような速さで抜き去ると激しい巻き風が起こり少年を揺らした。
そして魂の下、地面を這う緑の糸が細い蛇のようにスルスルと蠢いているのを少年はじっと見つめた。
タタタッ タッ。
黒い影はすぐ先で急停止しゆっくりと戻ってきた。そして暗闇から姿を現した。
姿を見せたのは緑色をした猫だった。それも胴体が異様に長く、半分から後ろは消えかかってしまったようで器用に前足二本で歩いていた。
その体の長い緑猫は彼に近づくと引きつったような驚く顔を見せた。そして怒鳴り声をあげた。
「よくもまあこんなところをちんたらと!!俺はおまえのそういうところが大嫌いだったんだ!!ずっと大嫌いだったんだ!全部おまえのせいだ!!全部おまえのせいなんだからな!!」
こみ上げる思いを抑えきれず、緑猫は堰を切ったように感情をぶつけた。
しかし、少年の魂はもう何も反応がなかった。
「ホントに呆れた奴だ、俺を見ても何もわかりゃしないか。お前にはなにも残っちゃいねえな。チッ!じゃあな」
緑猫は振り返るとまた風のように走りだし消えていった。一本の緑色の糸を残して。