魔法使い リリ ⑤

ウルルお婆さんの昔話

 

あれから数か月経ちまた冬を迎え辺りは一面真っ白な雪景色と変わっていた。

相変わらずリリの研究と魔法修行は続いていた。

 

魔法の基礎知識として、一般的に魔力というもは内側に宿るものを燃焼するものと、体外か取り入れたものを燃焼するものがある。例えると、火をだす魔法を使うのに必要な魔力は内側でも外側からでもどちらでも良いことになる。

ウルル婆さんはリリに触れた時から、また彼女の鋭い観察力、洞察力、感受性の高さからみて体外からの   エネルギー吸収能力がずば抜けていることを見抜いていた。

それにこうも考えている。そもそも全ての生き物には気功という体内に宿る神秘的な生命エネルギーを誰もが有している。量や体現の有無は個体差があるがゼロなはずがない。そこらに落ちてる石ころですら日を浴びることで微かに有するのだ。

リリのなかに眠るエネルギーを呼び起こす事か、その通り道を塞ぐ何かを取り除くことで覚醒するのではなかろうか。ウルル婆さんはそう睨んでいた。

 

リリは今 目の前で気を感じ取る瞑想をしていた。まだうまく外気からエネルギーを取り込めずにいる。

ウルル婆さんが星の砂を宙に巻くと金色の粉はリリの中に入っていった。

赤子がはじめて歩きだすのにつかまり立ちをする。例えるならそんな特訓だった。

いっそ、深い眠りを呼び起こすほどの強いプレッシャーを与えてみるほうが良策か?いや、それは好奇心か。とびきりの逸材を前に胸が踊る。いい歳して、とウルルはため息をついた。

 

「よし、今日はこのくらいにしよう」

「ぷはぁ~。疲れたぁ。おしりがイターい」

リリは床に寝そべって転がった。それをみたウルル婆さんは

「そりゃそうさ、止まっているものを動かす時はいつでも最初が大変だからね」

「ねえ、本当におちこぼれの私にも魔力ってあるのかな」

「私はね、あの何とかって儀式は昔から気に入らないよ。あんた玉っころ覗いて何が見えるってんだい。今の教育方針も感心しないね」

「なんで?あれで魔力量も系統も分かっちゃうんでしょ。便利じゃない?」

「私はね、自分の目と耳、体で経験した事しか信じないのさ。」

「ふーん。私にはまだわからない。ねえウルルお婆さん!また昔話を聞かせて!」

「そうさねぇ、じゃあ今日はこの西の森に眠る巨大な守護樹の話を聞かせてやろう」

「巨大樹??」

リリは窓越しに西の空を見上げたがそう目立って大きな樹は見当たらなかった。

「目に見える物が全てではないという事の良い例えじゃの」

ウルルの話は続く、この森と村が守護樹の精霊エルリアによって外界から守られていると。

この森にしか生息しない植物や動物を狙う密猟者や未開の地に心惹かれる冒険者、はたまた恐ろしい魔物。それらから数百年もの間、侵入されずに守られ続けているのはこの土地が精霊エルリアの加護を受けているからだと。

「良いものを見せてやろう。」

そう言うと、ウルルは戸棚の中から大事そうに小さな埃だらけの木箱を取り出しリリに渡した。

「やらんからの」

「いらないわよ!こんな汚いの」

リリがそう答えると、意地悪そうにウルルは笑った。

ウルルは右手の人差し指を唇にあて、その指で木箱をトントンと叩いた。

すると木箱はリリの手の平から飛び跳ねポンッと出た煙と同時にキラリと宝飾された宝箱へと姿を変えた。

「えー!!何!何が起きたの!すごい!!」

「フフフ、やらんからの」

また意地悪そうに笑うと、宝箱を開けて取り出した。

「見てごらん。木の実のネックレスじゃよ」

ウルルの手のひらから青い光りがこぼれた。

何かの木の実のようなものが鼓動をしているように小さく光っている。そして頭には夜空を切り取ったように輝く葉っぱが垂れ下がっていた。

「こんなの私 初めて見たわ!これも森にある木の実なの??」

「これはね。クルシミの実というんじゃよ。」

「クルシミノミ??なんか嫌な名前ね。でも聞いたことないわ」

ウルルは笑って答えた

「確かに名前だけ聞くとの。でもこれは守護樹のエルリア様から授かった大事なお守りなんじゃよ」

「守護樹のエルリア!じゃあ、ウルルお婆さんは本物を見たことあるの!!」

「もちろんだとも。とてもお美しい方だったのぉ」

「樹がキレイ?」

「ああ、空に届くほどの大きな守護樹はそよ風と陽の光に照らされて虹色のように輝いてての。それはそれは美しい光景じゃった。そしてそれに宿られたエルリア様はとても聡明な方じゃった。もし夢が叶うならもう一度お目にかかりたいもんじゃ」

「どうして、これを??」

「うむ、ひと昔前にこの大陸で疫病が流行った事があった。どんな毒消し草を調合しても治らない病気でな。当時魔法と薬膳の知識に長けていた儂が声に導かれたのじゃ。」

「声に?」

「うむ。不思議と心に直接語り掛けてくる声じゃった。導かれるままにこの西に広がる森を進んでいくとそこにエルリア様は姿を現しになられた。そしてお授け下さったこの実と葉を使って煎じた薬は全ての人々をお救いになられたのじゃ。」

「へ~。西の森に行けば私も会えるのかしら?」

「いや。強い結界と木々の精霊たちが許可なく立ち入る者にはキツイ罰を下すじゃろう。儂や村長ですら立ち入ることが許されん。」

「ふーん。そっか。」

こんなキレイな実と葉っぱが生る木ってどれだけきれいなんだろう。いつか私もこんな色を作れるだろうか。

西の空を眺めながら見えない大きな樹を想像した。

 

ウルルの昔話はいつも面白かった。毎晩いろいろな事を想像しながら眠りにつくリリだった。