BAR FULL MOON
リリは廊下の先に続く暗闇へと消えていくラムレルの後ろ姿を見送った。
彼が記憶の欠片を取り戻すたびに苦しみ、そして人格に変化が訪れるのを目の当たりしてきた。
彼がいつか一人遠くに行ってしまうような、そんな不安をリリは感じていた。
「リリ、突っ立てないでこっちにおいでよ!」
キルトとヴァイスがBARルームから呼びかけた。
壁の中からあらわれたBARのカウンターに三人は並んで座った。
カウンターに黒服の女性が待っていた。
彼女はコースターを並べると
「ようこそ、BARフルムーンへ。なにかお飲み物は如何でしょうか」
三人は顔を見合わせ
「どうする?」
「えーと、おすすめのジュースをお願いします」
「かしこまりました。では皆様にお似合いのオリジナルカクテルをご用意しましょう」
「あの、お酒は飲めません」
「ええ、心得ています。ご安心ください」
そう言うと、彼女は華麗な手さばきでフルーツの皮を切り、ボトルを開け、氷を取り出しシェーカーを振り出した。
シャカシャカシャカ
氷とリキュールがシェーカーの中で踊る。そのリズミカルで心地よい音が部屋に響いた。
彼女の振るシェーカーに合わせ、耳元でピアスがキラキラと揺れていた。
その姿がまるで大人の世界を覗き見したような、三人は魅了されたようにただ彼女の動きに見とれていた。
三人に並べられたコースターにグラスが置かれ、シェーカーのトップを外すと注ぎ始めた。
コリンズグラスに空色ソーダ水
青空の上に星が輝いているように、グラスの淵に星が飾られていた。
フルートグラスに夕焼けソーダ水
オレンジ色の夕焼けを切り取ったような色、夕日のように光るフルーツが炭酸にゆらゆらと踊っていた。
三角のカクテルグラスに夕闇カクテル
夜の始まりを知らせるような紫色の夜空、水面には流れ星のような波紋が波打っていた。
「どうぞ、ゆっくりとお過ごしください・・・。」
差し出されたドリンクに見とれていた三人に彼女はそう告げるといつの間にか姿を消していた。
一日の空模様を映したグラスを傾けながら三人はラムレルの帰りを待っているのでした。