星を飾る国 chelcy 本編⑤

足早に廊下、階段を駆けていき、王室へと向かった。途中、占星術師のウォマスと出くわしビザが目を合わすと彼は黙って頷いた。

 

ビザは玉座の間を抜け王室の扉の前に立つと、ブツブツ呪文を唱えノブを回した。すると扉に描かれた星の模様は歯車に変わり、回転を始めた。そしてカチカチと音を立てると扉は開いた。

そして、短い廊下を突き当たると螺旋階段が高く上へと続いていた。国王の部屋はこの先だった。

「やれやれ、老体に応えるわい」

ビザは溜息交じりでまたしてもブツブツ呪文を唱えた。すると今度はビザの体がふわりと浮き、最上部まで一気に塔を上った。

 

20メートルほど浮かびあがったビザは螺旋階段の終わりに着地した。

そして王室最後の扉を何度もノックした。

 

「王子!王子!起きて下さい!緊急事態ですぞ!!」ドンドンドン

 

だが一向に返事が返ってこなかった。

らちの明かない様子にビザは強硬手段にでた。扉には幾つもの魔法で念入りに施錠されていた。ちょこざいとビザは最上級の解錠魔法であっさりとドアを開けた。

 

ビザは王様の部屋へと入った。

天井はドーム型になっていて12個の星座が描かれ、壁には先代の王と王女の肖像画がかけてあった。

そして棚の上にはズラリと並べられた鉱石のコレクションがかざられていた。

その奥に置かれた大きなベットに子供が一人と緑色の猫が一匹、すやすやと寝息を立てながら眠っていました。

そこにビザがやってくると猫は気配を感じてベットから飛び降り様子を覗った。

「王子、起きてください。一大事でございます」

ところが全く反応なく、今度は体をゆすって繰り返した。すると布団の中にもぐり込み返って逆効果になってしまった。

呆れ顔のビザは一向に目を覚まさない王様にもっと大きな声を上げて

「王子!!気づきませんでしたかな。先ほど我が領土に星降り人が降りました。皆も待っていますぞ!」

「星降り人ごときで、さっきからうるさいよ。開封は明日!それか適当に、それっぽくやっといてくれ。その為の大臣だろ。だいたいに俺は王子ではない、王様だ!お・う・さ・ま!!以上」

そう言い終えるとまたすぴー、すぴーと寝息が始まった。

 

ぴきぴきと頭の血管がはちきれそうな大臣だが、彼は紳士だった。深呼吸をして続けた。

「陛下、一大事です。青色でございます。今宵の星降り人。青い卵で降りてきました。」

 

ガバッ!!

 

王様は勢いよくシーツをめくるとベットから飛び降りた。

そして、パジャマを脱ぎ散らかし着替えを始めた。

 

この小さな王様の名前はチェルシー 12歳

ツンツンした金色の短髪に色白の肌、透きとおるような青色の瞳が印象的である。

母親の王妃は彼を産んで間もなく亡くなり、父親の先代王は2年前に病で亡くなった。

彼は亡き父と生前に交わした約束を守り、幼さ残る若さにも関わらず昨年建国史上最年少で王に即位した。

無邪気さや幼稚さは残っているが判断力、洞察力、武術、学問と周囲の家来たちを圧倒し敬称させる才能と努力を重ねてきた。

 

そんな小さな王様の足元にすり寄る一匹の猫。なまえはシフォン。非常に珍しい緑毛の猫。ある日、チェルシーが城下町で弱ったシフォンを見つけ拾って帰って以来の親友だった。

着替えの最後にチェルシーは大きすぎる王冠を被る。

先代の王から引き継いだものだが大人サイズなので彼にはとても大きかった。

「王子、マントの着用を?」

「うむ。しかしビザよ。さっきから気になっておるんだが王子ではない、予は王だ。そこんとこ宜しく頼むよ」

「はっ!失礼しました。なかなか癖が抜けないもので」

「ふっ、伝説の星降り人との対面じゃ。何事も最初が肝心と言うであろう」

「はい。陛下のおっしゃる通りでございます」

 

そして、玉座の間にようやくチェルシー王とビザが現れた。

 

 

重臣の家臣たちは一斉に膝をつき王を迎えた。そしてチェルシーは玉座に座った。

「待たせた。では早速報告をせよ」

騎馬隊の隊長が一歩前にでてまた膝をつく

「ご報告いたします。今宵、我らの領土に青い卵の星降り人が降りました。こちらでございます」

兵士達に抱えられ、青い楕円形の物体が運ばれてきた。

「では、占星術師ウォマス前へ、騎馬隊は御苦労であった。下がれ」

占星術師ウォマスは青い卵の前に立つと膝をつき、古文書に記された一つの預言を読んだ。

 

「この世に混乱の闇が迫る時、青き流星の人が舞い降りる。その星降り人は重要な鍵となるであろう・・・。」

 

「陛下、予言に示されし青き星降り人かもしれません。長く生きてきましたが、このような青。色がついた星降り人は初めてでございます。如何なさいますか」

そう告げると、チェルシーは答えた

「うん。知っておる。もちろん開けるしかない!今すぐ開けちゃおうよ!」

チェルシーは目をキラキラさせながら即答した。

「御意、では星術解錠の儀をはじめます」

 

ウォマスは用意していた、三角帽と年期のはいった大きな杖を受取ると準備をはじめた。

床に魔法陣を記しながら呪文を呟く。

 

「さて、この殻は人類の英知と希望かそれとも闇と混乱。白か黒か。少々身が震えるわい」

星降り人の知らせを聞いたウォマスは王様の性格上、間違い無くすぐに解錠すると予想していた。だが、この世界に影響を及ぼし歴史において足跡にも爪痕にもなる可能性を秘めたこの危険物を前に彼は緊張を抑えられなかった。

 

「では、解錠いたします」

「うむ。」

チェルシー王は頷いた。

ウォマスが呪文を唱えると床に魔方陣が浮かんだ。青い卵の殻にも文字が浮かびあがり光り出した。

殻はひびがはいり、その内側から光が漏れだした。

「天から降りし魂よ、新たな肉体に身を包め。その魂ここに解き放ちたまえ!!!」

 

魔方陣の光は増し、卵は浮かびあがる。ピキピキと音を立て、ひびから欠片が落ちた。

 

中から溢れる膨大なエネルギーに耐えていた殻がその限界を超えた時

 

パリンっ!!

ガラスの花瓶を割ったような高音の破裂音とともに中から新しい命が姿を現した。