チェルシーは興奮し立ちあがり
「いでよ!救世主!!ウルトラヒーロー!!」
王様の掛け声に合わせ広間に歓声が上がった。
光が消え、殻の中から現れたのは小さな男の子だった。栗毛色の髪は寝ぐせではね、色白の肌に緑色の瞳。
年齢でいうと8歳くらいのひょろっとした子供だった。
チェルシーは幼児の頃、眠れない夜にいつも大臣のビザから聞かしてもらっていた。まるでおとぎ話のような青い星降り人の言い伝え。
「いつか世界に異変が起きた時、青い星降り人が現れる」
きっとそれは世界を救う救世主に違いない。すごく強い星降り人なのだ。
一体どんな姿だろうか?
神話に出てくるような大柄で筋肉質の英雄かな、それとも火を吹くドラゴン。
チェルシーはそんな想像をしながらいつも眠りについていたのだ・・・。
その長年夢見てきた想像とはあまりにかけ離れていた現実にチェルシーは落胆をしてしまった。
椅子に座ると、ビザを手まねきし耳打ちする
「のうビザよ。だいぶ聞かされてきた言い伝えとは違うみたいじゃの」
「はい・・・陛下。私もそのような気がしなくもありませんが。あれでいて凄い何かがあったりするかもしれませんぞ」
「ふん!拍子抜けじゃ」
ざわつき始めた中、侍女のモリカが膝をつき
「陛下、失礼を致します。」
「構わん、申せ」
「あの、この子が裸なので服をご用意しました。着せてあげても宜しいでしょうか」
「ああ、確かにそうだな。頼んだ」
モリカは深くお辞儀をすると生まれたての星降り人に駆け寄り用意していた服を着せ始めた。
星降り人はまだぼんやりとしたままで意識がはっきりしないようだった。
広間の家臣たちも今世紀最大のビッグイベントがまさかの期待外れとざわつきだした。
ビザが静粛にと沈めると、熱の冷めたチェルシーが
「よし、今宵はもう遅い。古文書の預言も開けてしまえばこんなもんということだ。続きは明日にしよう解散だ」
「むむ。さすが王子、熱しやすく光りの速さで冷めやすい。もう適当だ。」と思いながら決して口に出さない大臣のビザ。
「それじゃ名前とかしつけとか、明日からでいいや頼むよ。何か変わったことがあれば教えて。それが無ければボクはもういいや。」
「ほら、投げやりだ。」
と思ったビザだが口にはしなかった。
まるで壊れたおもちゃを放り投げる子供のようだと頭を抱えビザはウォマスに歩みよった。
「ウォマス殿、この子は今夜魔研で預かってください。名付けと適正の鑑識はまた明日ということで。」
「招致しました。仰せのままに」
ビザは大きくパンパンと手を叩くと
「ささっ、皆の者。終わりにしよう。ご苦労であった」
緊急招集の会議もお開きとなり、それぞれ解散しようと動き出した。
「お待ちくだされ!陛下!!」
ガシャガシャガシャ、大きな体に無理やり鎧をきこんだ男が大きな声をあげ広間の扉を開け放った。
やれやれ、あきれ顔のチェルシーは
「今度は何事じゃアデモ!」
アデモは王国一の巨体で見た目通りガサツな男だった。だがその腕っ節と誠実な忠誠心を買われ三番兵隊長、城の警備や防衛部隊を任される男だった。
「警備隊長、アデモ入りまーす」
甲冑がゆれる金属音をガチャガチャ響かせアデモは得意げな顔で進んだ。
アデモの小脇には男の子が抱えられていた。
「離して下さい!お願いします!離して!」
その男の子は必死に叫んでいた。
この男の子の名前はキルト。一年前まで城下町で靴磨きをしていた身寄りのない少年だった。それをチェルシーが気に入って城に連れ帰り、雑用係をさせていた子だった。
アデモは乱暴にキルトを床に落とすと頭をねじ伏せ、膝ついた。
「申しげます!陛下、ここ数日城内で起こる連続盗難事件の真犯人を見つけました!!」
「ほう、それは誠か?そして、その犯人がキルトと言いたい訳か」
「はい、その通りでご、ご、ございます」
「断定するからには動かぬ証拠とやらがあるのであろう」
「もちろんでございます」
「お待ちください!陛下、アデモ様!」
そこに侍女のモリカがキルトに駆け寄ると床にふせ申し訳なさそうに進言した。
「私はキルトにここの仕事や掃除などを教え世話をしていました。いつも一緒にいました!この子はそんなことをするような子ではありません。チェルシー様、アデモ様、どうかお許しください」
「ところがこれはどう説明す、す、るる?」
アデモはキルトの首を掴み軽々と持ちあげた。
「く、苦しい。離せ、離して」
名一杯抵抗するがアデモの剛腕はびくともしなかった。バタバタと動かすキルトの足から片方の靴が飛んでいった。
そして、アデモはキルトのポッケに手をいれると中から眼鏡がでてきた。
「あれは、わしの眼鏡!!」
そうもらしたのはビザだった。
「それだけではございませんませ、、ん。こいつの部屋には残り全て27個。盗んだ物がございま、すす」
ビザは髭をを撫でながら答えた
「なぜ27個と言いきれるのか。不思議や不思議。」
「まあ落ち着け、アデモよ。そんなにカッカしてると頭の血管が切れるぞ。キルトが苦しがってる。今すぐ降ろしてやれ」
「陛下、わ、わ、私はわ、見ました。コイツの部屋に盗みを」
アデモは手を離すとキルトは床に落ち倒れた。喉が潰れたのだろうゴホゴホと咳を繰り返した。
「キルトから詳しく話を聞くとしよう。アデモ、下がってよいぞ」
ビザの声に広間の空気は落ち着きを取り戻せたようにみえたが、アデモはその命令にしたがう様子がなかった。
青い星降り人の少年は何処に焦点を合わせることもなく虚ろな目でぼんやりとしていた。そこにコロコロと足元に転がり、何かがつま先に当たった。
緑色の瞳は足元に落ちてるその何かを捉えた。
それはキルトの脱げた片っぽの靴だった。靴の側面には羽のような模様が縫い付けられていた。彼は靴を拾い上げ、羽の模様を指先でなぞった。
すると、頭の中に小さな声が聞こえた。
“ アキレス „
その言葉が頭の中で何度も繰り替えされた。
目を閉じると脳が途切れ途切れの映像を見せた。
「ねえ、お願い!・・・今度はこそ頑張って一番になりたいんだ・・・」
映像はプツリと消え、それと同時に激しい頭痛と眩暈に襲われ気絶寸前になった。
また途切れそうな意識、朦朧とする視界。そんなかれの目の前に透明の玉が浮かんでいた。
騒動を起こすアデモ達の影で目立たなくなった星降り人だったが、その異変にチェルシーは気が付いていた。
「あいつ、なんか動いたか?」
だが、大柄なアデモに隠れてよく見えなかった。
星降り人は突然現れた透明の玉を手にすると
「ラ ム ・・・。」と囁いた
「え、今なんか言った??ラムネル?」
アデモ達が騒がしくてチェルシーは聞きのがした。
星降り人の彼が囁いた言葉は何かの呪文だったのだろうか。透明の玉と彼は突然青白く光り出した。
「しまった!!!やれ!!」
その声に反応してアデモは腰から剣を抜き、頭上に構えるとキルト目がけて振り下ろした。